電車の中は、半径45cmのプライベート空間——通勤移動の価値をインタビューから読み解いてみた
オリコムの生活者探求プロジェクト「シルホド!」では、移動中の生活者の行動や意識について継続的に観察や調査を行ってきました。
スマートフォンの普及やコロナ禍といった社会の環境変化の中では、移動する生活者の行動や意識も変化してきています。
今回、「広告媒体として交通をよく使うけれど、交通ならではの使い方ってあるのだろうか。今の生活者のリアルを知りたい!」と考えていたクライアントと共に、6名の働く男女にインタビュー調査を実施し、今の生活者の日常にとって「移動」はどんな価値を持つのかを探ってみました。
その調査結果から、通勤時の行動と意識の変化を考察してまいります。
スマホとイヤフォンは、もはや手放せない相棒
通勤時の持ち物として、全員が挙げたのが「スマートフォン」です。
「家を出てからすぐ」、「早く電車がこないかなー」とそわそわしながら電車を待ちながら、スマホとイヤフォンを手にしはじめていました。
もちろん、混んでいたり、乗車時間が短い時はスマホは控えるという声がほとんどでしたが、それでもイヤフォンをして音楽を聴いていたりもします。
定量データからもその様子は見て取れます。
「やらなきゃいけないことを移動中の隙間時間でやってしまおう」という気分が見え隠れしますね。
このように、働く人の通勤シーンに、スマホとイヤフォンはもはや切っても切れない存在ではあります。
自分の周り半径45cmの「プライベート空間」
通勤電車には多くの見知らぬ人が乗っています。
しかし、スマホ・イヤフォンがあることで、電車内で周囲の人と自分を感覚的に隔て、即席の「プライベート空間」を作っているということがわかりました。
コロナ禍を経て、生活者は、仕事や家庭で「活躍できる自分を目指す」よりも「自分らしさを大切にしよう」という価値観を持つようになってきました。
インタビューでも、「仕事が嫌だと思うようなこともないが、会社に着くまでほとんど仕事のことは考えない」という人が大半で、プライベートと公をバランスよく切り替え、心地よく日々を過ごそうとする意識の高まりを感じます。
そして通勤電車は、「働く人」でも、家庭での「パパ」や「妻」でもない「一人の自分」でいられる時間です。半径45cmのプライベート空間で、心は自由に自分らしく過ごしています。
周りへのアンテナは常に張られている
このように、スマートフォンに向かって「私のプライベート空間」を楽しんでいる人でも、ずっとスマホだけに集中しているわけではありません。
「今どのあたりかな」と気になった時。ゲームの隙間でうざいアプリ広告が流れてきた時。コンテンツを見終わったキリのいいタイミング。そんなふとした瞬間に、プライベート空間から周囲に意識が放たれます。
「電車に乗ったらいつも集中して韓流ドラマを見る」と話してくれていた方の発言です。「仕事のことは考えない」、「動画ばかり見ている」とはいいつつも、周りへのアンテナは張られていて、意外といろんなことが目に留まっている様子が窺えました。
こちらは別の方の発言なのですが、電車では「いつもスマホでインスタを見ています」といいつつ、たまたま目にした広告をきっかけに「やらなければならないこと」を思い出して、改めてスマホで調べ始めたそうです。
周りへのアンテナは常に立っていて、ふとした違和感を感じた時にふっと情報が流れ込んできます。そして「今まで考えてなかった」「忘れていた」「知らなかった」というような自覚していない・できていないことを、周囲の情報によって引き出される空間でもあるといえそうです。
想定外の「へぇっ!」となら、出会いたい
インタビューを通じて、通勤時の生活者は、仕事へのマインドセットを高める時間というよりは、周囲にアンテナを貼りつつも、スマホとイヤホンを装備することで、半径45cmの「プライベート空間」を楽しんでいる様子が見えてきました。
その背景には、「ひとりひとりそれぞれが好きなことをすること」が是であるという価値観が醸成されてきたことがありそうです。
そして、音楽や動画のサブスクに代表されるようなスマホを介したサービスでは、ひとりひとりの「好み」に合わせて様々なコンテンツをおすすめしてくれます。自分の「好き」であふれているスマホに、意識も時間も使うというのは自然なことだといえるでしょう。
しかし、個人の「好き」に合わせることには、こんな一面もありました。
「腹立たしい」という発言が非常に印象的だったのですが、スマホでは「自分が好きな情報としか出会えない」、「何度も同じ情報に遭遇する」というもどかしさ、いらだちがあるようです。
半径45cmの「プライベート空間」の中だけで出会える情報では、満足できていないのです。だからこそ、世の中の流行や、今までに自分が好きかどうかも気づいていなかったようなモノ・コトも知るために、周りにアンテナを張っています。そして、「へぇっ!」となった情報には反応して、記憶としてストックしたり、その場で調べたりもします。
そうして得た情報は「新たな関心」としてスマホに蓄積されて、スマホから提案される内容はさらにカスタマイズされていきます。そうして「プライベート空間」がさらに充実していくことを人々は期待しているのだといえるでしょう。
本調査レポートの詳細版をご希望の方は、「電車利用者の行動実態レポート希望」と明記の上、シルホド!までお問合せください。
(競合社の方や、個人による情報収集目的の方には開示できない場合がございます。ご了承ください。)
なお、今回は「電車利用者を理解する」というテーマで実施しましたが、上記以外にもいくつかテーマを設けて生活者を見つめていく活動を実施予定です。
一緒に調査に参加してみたいという企業様がいらっしゃいましたら、「シルホド!オープンラボ」参加希望と明記の上、お問合せください。